《No.12》
選択の自由


平成15年5月号

《MEMO》

この話には続きがあるのよ。どう?聞きたい?
人間が生活していくためには最低限何が必要?食事や睡眠の確保、清潔や排泄、運動‥‥。じゃあ、この中で優先順位を決めるとしたら?「まあいいや」であきらめられるのは、どれ?
「究極の選択!」

春の終わり頃、ある事業所からCさんのケアマネを引き受けてもらえないかと依頼された。利用者が定員いっぱいで、これ以上は無理というのだ。

「ちょっと大変な人で、ウチのヘルパーが大分、片付けといたから(モゴモゴ)‥‥オカザキさんなら、大丈夫」「へ?」
教えられたとおり、Cさんが暮らすアパートに向かう。ドアを開けると、漂ってくるアヤシイ臭気。薄暗い室内、束ねた新聞紙、身の回りの品がスーパーの袋に詰め込まれ、いくつも無造作に積み重ねてあるのが見える。
「こんにちは!」勇気を振りしぼって中に入る。足にシトッと湿った畳の感触。ううっ。

足が悪く、腰の曲がったCさんは生活保護を受けて暮らしていた。快活でよく冗談を言う明るい人だ。以前は近所の商店に買い物にも行けたが、足がますます悪くなって外出できなくなり、困っているということだった。日々の買い物もゴミ出しも滞っていた。台所の照明は壊れていて調理をした形跡もない。
「食事はどうしているんですか?」
「お弁当屋さんが持ってきてくれるのを食べているので、大丈夫」
玄関脇の和式トイレには手すりもなく、途中に高い段差がある。「トイレは?」
「壁につかまりながら行くから大丈夫」
「じゃ、お風呂は?」
「昔っから汗かかない性質だから」

買い物だけ手伝ってもらえばいいと言うCさんに、部屋の掃除も必要と、ヘルパーを週2回派遣することになった。私が担当に決まって、以前からCさんと関わっていた人たちが、いろんなコトを教えてくれた。

「あそこのウチ、玄関の水たまり、あれ、オシッコだから気をつけろな」「えっ?」さあっと、血の気が引く思いがして、膝がガクガク震えた。確かに、そう、いつも濡れている。「トイレ間に合わないのよぉ、いっつも、あそこで用足すんだ」尿臭だったのか。以来、訪問するときには飛沫を上げないよう気をつけて歩いた。車の中に消毒用アルコールやタオル、替えの靴下を置くようにした。

「いやぁ、Cさんのウチ、キレイになりましたよねぇ。前は便臭、ひどくてねえ。」「‥‥。」新聞紙の上に排泄したものが部屋のあちこちに転がっていたそうだ。ヘルパーさんが片付けたって、もしかして、コレ?

確かに大変だった。でもネ、今、冷静になって思う。こうなるまでにどんな歴史があったのか。Cさんは食事さえ何とかなれば、風呂に入らなくてもいいし、垂れ流しだって気にしていない。ウンコまみれシッコまみれでも、自分で選んだ自分の人生なのだ。後から来て「何とかしなくちゃ」なんて、おこがましいだけじゃないのか。私は、ただのお節介だったのかな。
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