《No.19》
自己負担ゼロの苦悩


平成15年12月号


《MEMO》

利用者の介護のお世話だけではなく、時として、人生における重要な決断を迫られるような事態に陥ってしまう。丸ごと背負わなければならないような圧迫感。我が身もままならないのに。気負いすぎるな、錯覚さと思いたいんだけれど‥‥。
介護保険でサービスを使う場合、かかった費用の1割を自己負担するというのが原則。1ヶ月に利用できる介護サービスには、要介護度によって費用の上限が決められている。この限度額の管理もケアマネの重要な仕事なのだ。

サービスの利用制限と勘違いされそうだが、そうではない。必要であれば好きなだけサービスを使ってもいい。ただし、限度額を越えた分の費用は全額自己負担となってしまうのを覚悟しなければならない。お蔵にお金がうなるほどあるというのは稀なケース。やむを得ない事情があって、例えば、痴呆が急に進んで暴力を振るい手に負えなくなったとか、介護者が急病で面倒が見られなくなったためショートステイを利用するとかがパターンとしては多いようだ。ちなみに山形県の昨年の調査では、1ヶ月負担可能額は5千円〜1万円未満が最多であった。

Yさん夫婦の場合は、ちょっと例外。要介護度5で寝たきりのT子さんと、目が悪く虚弱な夫の二人暮らし。二人には子供も頼る親戚もなく、妻の介護保険を利用し、訪問看護とヘルパーの援助で生活を成り立たせていた。T子さんには痴呆などないが自分では寝返りもできないので、食事や排泄の介助、褥創防止のための朝夕の体位交換は夫の仕事であった。夫も年々体力が落ちてきて、介護が大変になってきた様子が端から見ても分かる。仲が悪いわけではないが、二人はしょっちゅう喧嘩した。喧嘩の後は決まってT子さんの体調が悪くなり、緊急の訪問看護が必要になった。

生活保護を受けているので、自己負担はない。一方、限度額内のサービスしか利用できないという制約があった。突発の事態を見込んでサービス利用計画を立てても、いつもギリギリの綱渡りだった。

二人の暮らしを妻の介護保険だけで支えるのは難しくなってきたため、夫の分を新規に申請した。それでも不足しそうになり、次に、介護保険の範囲外で使える福祉サービスを探し回り何とか毎月を凌いでいた。骨の折れる仕事だった。たまりかねて涙ながらに施設入所を勧めたことがあったが、気ままな生活を続けてきた二人に受け入れてもらえるものではなかった。

夫の持病が悪化し、緊急入院することになったとき、T子さんも同時に社会的入院をすることになった。アパートに一人にはしておけない、あれこれ計算してみても限度額の枠内ではヘルパーの巡回もままならないのだ。私はやっと気付いた。どんなに喧嘩しても、二人は一緒にいなければならなかった。夫がいないと、妻は食べることも飲むこともできなくなる。逆に、妻がいないと、夫の介護保険の限度額内では、生活そのものを支えられないのだった。

ケアマネの苦労を分かっているのかいないのか、Yさん夫婦はどちらかが欠けることから目をそらし、危ういバランスの上に寄り添って暮らしていた。
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