《No.9》
御用聞きケアマネの実態


平成15年2月号

《MEMO》

私が担当していたいわゆる「困難ケース」のひとつです。
この頃、「オカザキさん、他のケアマネより困難ケースの比率高いんじゃないの?」と言われていました。ホント?ね、みんな持ってるんでしょう?困難ケース。ね?
いやはや、大変だったけどいろいろ考えさせられ本当に勉強になりました。
ケアプラン(介護サービス計画)は、介護を必要としている人の精神や身体の状況・生活環境等のありとあらゆる情報を収集して、客観的に分析した上で本人や家族の希望に沿って立案される、ということになっている。利用者に残っている生活能力を教科書通りにあぶり出すことができれば、足りないところを補えばいいことになる。例えば、「買い物さえ手伝ってもらえば食事の支度は何とかやっていける」とか、「自分でトイレに行けるようになるため歩行訓練を頑張ろう」とか。やりようによっては、それらの能力を強化することもできるはずだ。しかし、ダメダメの私には、このように手順を踏んでケアプランを組むことがついにできなかった。情報を引き出すための面接技術も、分析力も未熟だった。何のお手本もない当初の時期には、利用者の希望を叶えるだけで精一杯だったのである。

Yさんは、寝たきりの大ベテラン。脳梗塞の後遺症でかれこれ10年以上天井とにらめっこしている。手足の筋力は低下し関節も固まって、自力では寝返りもできない。要介護度は「5」。しかし、痴呆は一切無い。家計管理はもちろんのこと、時事問題にも明るい、大変な知力の持ち主なのである。

「ちょっと、来てけろ」僅かに動く右手で、Yさんはしょっちゅう電話をかけてよこす。冴えわたる頭脳で、次から次へといろんな要求を出すのだ。やれ、ヘルパーの作る料理が口に合わない、一回に使う洗剤の量が多すぎる、オムツのあて方が下手だ、隣家の物音がうるさい、エアマットの空気が抜けた気がする、‥‥どうにかしろ、と。

誰もが彼女に振り回された。悪意がある訳ではなく、Yさんなりの理屈もあった。そうして自分はベッドにいるだけで、何もしなくても生活ができるように環境が整った。

誰も好きこのんで不自由な身体になるのではない。頑固なところのあるYさんは、周囲の勧めに耳を貸さず、リハビリを拒否し続け、典型的な廃用症候群になってしまった。昔は利き腕で起き上がることもできたのが、できなくなった。体をちっとも動かさないから腸の動きが鈍くなり、お腹が張ってひどい腹痛に悩まされている。痛くて苦しい褥創は何度も経験済みだ。その結果、不幸にもますます不自由な身体が作られていった。

すぐ駆けつけたからといって、サービスへの苦情、ヘルパーさんの悪口、夫婦喧嘩の八つ当たり、文句を聞くだけで落ち着くことがほとんどだった。「何だかねぇ、Yさん。私ってさあ、御用聞きみたいだねえ。」ふと思いついてそう話すと、Yさんもニヤニヤッと笑った。

月のうち少なくとも1/3のエネルギーをYさんに吸い取られるように感じていた。ああもした、こうもした、疲労感があり達成感がない。力の配分、駆け引きが分からない、Yさんの生活も向上していない。ケアマネの生兵法は大怪我の元なのだ。
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